第78回 高等学校卒業式
2026/03/04

第78回 高等学校卒業式 式辞
正門を彩る紅白の梅。寒さに耐え、つぼみを膨らませ、早く咲くものもあればゆっくり咲くものもあり。それぞれのタイミングであれ開花するその様子は生徒たちの成長と重なって見えます。靴の底からはまだまだ冬の名残りを感じているものの、吹き抜ける風には春の香りがするようになりました。今年もまた出会いと別れの季節がやってきました。
3年生のみなさん、卒業おめでとう。そしてご家族の皆様、お子様のご卒業を心よりお喜び申し上げますと共に、この3年間の深いご理解とご協力に厚く御礼申し上げます。
そして、本日はご多忙の中、理事長先生を始め多くのご来賓の皆様のご臨席を賜り、ご一緒に卒業の門出を祝うことが出来ますこと、謹んで御礼を申し上げます。
また、創立百周年記念事業として、登録有形文化財に指定された岡田日帰記念講堂の改修工事を行ってきましたが、つつがなく終了し、綺麗になったこの講堂で、初めてみなさんの卒業式を挙行する運びになりましたこと大変嬉しく思っております。
さて、みなさんはコロナ感染症の影響で、中学の入学式が行われなかったか、または6月以降に行った学年ですね。制約が厳しい状況での中学時代だったはずです。マスク越しの顔しか分からないまま、友達との距離感もあり、思い描いた学校生活とはならなかったかも知れません。そんな中、通常通りの学校運営を基本とし、「いつでもウエルカム」と学校を開き、且つ自己肯定感を育むべく、誰か・どこか・何かを照らす「全員レギュラー」を掲げていた本校とみなさんが出会うこととなったのです。入学生は8クラスという大きな規模の学年となり、学校への期待の大きさを改めて実感しました。
入学直前の3月末には、WBCで日本チームが優勝という興奮の中始まった3年間、世の中では色々なことがありました。コロナが5類に・イスラエルとハマスの内戦勃発・能登半島沖地震・大谷50-50・「パリ」オリンピックパラリンピック・日本被団協ノーベル平和賞受賞・米不足・初の女性総理大臣・大阪関西万博・ミラノコルティナ冬季オリンピックで日本中が毎朝感動・そしてアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃及び報復攻撃・WBCが今週開幕。
またこの3年間は選挙が多かったですね。2年生の時に、東京都知事選挙・衆議院選挙、3年生では都議会議員選挙・参議院選挙・衆議院選挙でした。高校3年生となれば選挙権を持っている生徒もいるわけですから自分事でしたね。そして政権は少数与党から圧倒的多数与党へと変化しました。これからも選挙はありますが、主語は「政治家」や「政党」ではありません。主語は「私が」です。私が「日本をこうしてほしい」「生活をこうしたい」と願う気持ちを実現するために、私が、誰を・どこを・何を選ぶかということです。くれぐれも主語を間違ってはいけませんよ。
このような世の中で起きていることに関心を持ち「自分の事」として考えてほしいという私の願いはみなさにちゃんと届いていたでしょうか。これは私に与えられた使命だと思って、毎週月曜日に話してきましたが、そもそもはコロナ対応がきっかけです。あの時期は、大学入試改革が叫ばれ、中高の学びを変えようと日本が動き出していた頃です。世界の若者に比べて「読解力」「表現力」「課題発見解決力」などが劣っているということが理由だったはずです。データや事象から読み解く力や英語のスピーキング力を鍛えよう。そして「探求学習」の導入というものでした。であるにも関わらず、コロナに関しては、政治家・専門家・メディアは同一の見解のみを発信し、市民は思考停止状態になっていました。求められていた「読解力」は、「課題発見解決力」はどこへいってしまったんだというのが当時私の疑問の始まりです。関心を持って情報を得て、比較することができるようにしておかなければ、ミスリードされる危険性があると実感したのです。ですから、コロナについても、その後の世界や日本の事についても、まずは知ってもらうことから始めました。知らなければ読み解くこともできないし、どこに課題があるのかも考えようがないのです。単なる学力の問題ではなく、こういったセンスを磨いておかないと大変なことになると感じたのです。種はまきました。このあとは自分で育てていってください。知らない間に搾取されたり、利用されて不幸になること回避し、自分と自分の愛する人を幸せにするために。
さて、本校では様々な活動に力を入れてきました。みなさんは色々な体験をしたり、一つの事に深く取り組んだことでしょう。その一つに部活動があります。運動部も文化部も、関東や全国大会に出場する部活もそうでなくても、それぞれに大切なことを経験したはずです。これは、クラスという集団とは違い同じ目標を見ています。そこには年齢差も立場や役割の違いもあります。一生懸命だからこそのいざこざだってあって当たり前です。かけがえのない仲間との出会いは一生の宝物です。私自身も校長でありながら男子バレー部の監督を2年間させていただきましたが、生徒たちとの真剣な日々は大切な思い出です。
外部との活動に関しても、様々トライしていきましたね。来場者100万人を超えるという「東京高円寺阿波踊り」の本校ボランティアはついに100名を超え、ボランティア全体の7割となっていますし、そのリーダーにもなっています。子ども食堂や寺子屋の運営・お年寄りをご招待するさくらを楽しむ会やデジタルサポート等々です。少し足を伸ばして、福島県を応援する「甘酒プロジェクト」は福島県だけでなく杉並区をも巻き込むこととなりました。リンゴ甘酒・もも甘酒につづいて今年は老舗和菓子屋と組んでの最中作りへと変化し、AKBが主催するイベント「どうしても福島が好きだ」の会場で販売されるようにもなりました。また、北海道根室高校と沖縄興南中高とはオンライン交流を始め、修学旅行では首里城の案内もしてもらいましたね。地震で被害の大きかった能登の輪島高校とも接点を持ち、如何に復興が進んでいないかという残念な事実についてもメディアが発信するよりも先に知ることとなりました。政治家との公開ディスカッションに参加した生徒は、1か月以上準備をし、質問力やプレゼン力の向上に努めて臨みました。特に今年度は外部講師の方々との勉強会に時間をかけ、政治家からの厳しい評価にも屈することなく堂々と自分の意見を言っており、本校の生徒たちの実力が間違いなく上がっている実感を持ちました。日本を外から見てほしいという願いから、海外プログラムも積極的に実施しましたね。夏のオーストラリア・イノベーションコースのカンボジア・ニュージーランドへのターム留学・海外大学推薦制度等で、みなさんの在学中に100名の生徒が本校の海外プログラム経験者という所まで成長しました。
さて、学内における最も大きな活動は三大行事の「体育祭」「紫苑祭」「合唱コンクール」ですが、ここでは体育祭について話します。世の中の風潮としては、ケガをしそうな危険なことはやらせない。優劣が付く競争はやらせないという傾向になっています。そこに至る考え方は理解できますし、否定をするつもりもありません。しかしながら、我々はその方針ではなかったですよね。勝ち負けがありますから優劣は当然つきます。その勝ち負けに対してみんなが一生懸命に取り組んでいます。この一生懸命な姿勢に優劣はありません。手を抜く生徒は一人もいません。また荒っぽい種目もいくつかあります。だからこそケガをしないように、させないように、新年度スタートから準備に入っていますし、当日も危険回避のサポートが付いているのです。この経験には、「自分自身を知る」という意味と、「他者へのリスペクトを学ぶ」という大切な意味があるのです。アクティブな種目の中に、ひときわ輝くのは、浴衣で舞う高3女子生徒による花笠音頭。剛と柔の二面性に人生の機微を感じます。最後は無事に体育祭が終わることへの感謝の気持ちを込めて、男子生徒全員による雄たけび「エッサッサ」で幕を閉じます。本校の教育理念「生命の尊重、慈悲・平和」を正に表現しましたね。
そんな皆さんの影響もあり、ありがたいことに次年度も後輩たちが数多く入学して来ます。受験生のアンケートには「生徒の皆さんの様子」が常に上位となっています。説明会では本当に多くの生徒が活躍していました。部活動30秒チャレンジ・校内見学担当・生徒が語るコースの特徴や校長との対談・生徒だけで運営する学校見学会等々です。どれをとっても毎回大好評でした。みなさんが学校を愛する気持ちと、みなさんの内面的な成長や表現力の豊かさを目の当りにしてきました。
さて、視点を前に向けてみましょう。みなさんが生きていく未来とはどのような世界でしょうか。自然環境の変化は生きていく上での安心安全と直結しています。グローバルといわれる枠組みの中で、経済や外交はどこへ向かっていくでしょうか。戦争や紛争をなくすことはできるのか。少子化への具体的取組をどうしましょう。それらに対してAIの進化はどこまで影響力を占めるのでしょうか。分かっていることは、今日の延長線上に未来があるということと、思い描かないものは実現しないということです。明確な答えなどどこにもないし、答えを求めるという行為よりも「問い」を求める行為こそが必要だと確信しています。常識だからとかメディアがそうだからとか、みんなが言っているからなどという「思考停止」ではいけません。
詩人の長田弘さんがご自身の作品「あのときかも知れない」の中でこう言っています。
その時だったんだ。
その時、君はもう一人の子どもじゃなくて、一人の大人になってたんだ。「なぜ」と元気に考えるかわりに、「そうなってるんだ」という退屈な答えで、どんな疑問もあっさり打ち消してしまうようになった時。と。
みなさんがそうならないことを心から願っています。
先ほども触れましたが、次年度に創立百周年を迎えます。日蓮上人第650遠忌の祈念事業として、五重塔を建てるより「人の心に塔を建てる」として設立され、「生命の尊重、慈悲・平和」を教育理念としています。創立者岡田日帰上人の遺志を継ぎ、今日に至るまで、数多くの教職員が若者の可能性に情熱を注ぎ、数多くの卒業生がこの志をまとって巣立っていきました。本日からみなさんも歴史の1ページとなるのです。
結びになりますが、私自身の支えでもあり大好きな言葉を、
皆さんの未来に幸あれと願い、「はなむけの言葉」として贈ります。
たとえ空に限りがあるとしても
自己に限りを設けるな
かくなりたいと願え
さらば成就せん。
令和8年3月3日
東京立正高等学校 校長 梅沢辰也

