校長室の窓から

高等学校卒業式
2024/03/01

本日は高等学校の第76回卒業式でした。卒業生のみなさん、保護者のみなさまご卒業おめでとうございます。以下に校長式辞を載せさせていただきます。

 

式 辞
 
「今年も例年の様に」と言えることがどれ程幸せか、とかみしめながら、紅白の梅の花が正門をグラデーション豊かに染めています。時折吹く風はまだまだ冷たいけれど日向に出れば体ばかりではなく心まで温めてくれるようになりました。もうすぐそこに春が来ているのですね。そしてそれは、今年もまた、出会いと別れの季節を迎えたということです。
 
3年生のみなさん、卒業おめでとう。この変化の3年間を本当によくがんばりました。そしてご家族の皆様、お子様のご卒業を心より祝福いたしますと共に、この3年間の深いご理解とご協力に厚く御礼申し上げます。また今回は久しぶりとなりましたが、ご来賓の皆様にご臨席を賜り、ご一緒に門出を祝うことができましたこと誠にありがとうございます。
 
2020年、中学3年生だったみなさんは全国一斉休校からのスタートでした。中学最後の行事も部活も大会も中止が相次ぎ、さぞかし無念だったことでしょう。高校受験に向けての学校説明会はと言えば、オンライン開催で学校を見に行くことさえできない状況でした。そんな中にありながら、本校を受験校として選んでいただき、そして入学されたことに深く感謝申し上げると共に、ご縁を感じずにはいられませんでした。
振り返ってみれば、制限を設けながらも保護者の皆様参列での入学式に始まり、他校とは一線を画し多くの教育活動を実施してきました。1年次のスキー教室と合唱コンクール2年次のカンボジアSDGS研修は残念ながら中止としましたが、なんとか通常に近い学校生活を送らせたい、この時にしか経験できないことがあるんだとの使命感をもって生徒たちと向き合ってきました。
 
その中でも、2023年5月、最高学年での体育祭は本当に素晴らしかった。私は高校3年生の実力を体育祭で計っています。誰一人手を抜かず、全員全力、笑顔と涙。男子生徒全員によるエッサッサの雄たけびは、観客の魂を揺さぶりました。高校3年生女子生徒による花笠音頭は可憐でしなやかさで、それぞれの花を校庭に咲かせていました。あの校庭のあの範囲であれだけのエネルギーが爆発する皆さんの情熱と節度に感動していました。これは高校3年生が後輩たちに後姿を見せてきた結果です。みなさんも伝統を守りさらに進化させたのです。
 
みなさんがいたこの3年間は、本校のSDGsの活動が幅も深さも大きく変化した3年間と言えます。「なぜ」と考えることを大切にし、私たちはアクションを起こしました。地域のみなさまと連携し小学生に勉強を教える寺子屋やこども食堂の運営は地域のおなじみとなりました・桜を楽しむ会では近隣のご高齢の方を学校にご招待しています・高円寺フェスティバルで吹奏楽部とダンス部が街を盛り上げ・高円寺阿波踊りでは40名もの生徒がボランティアとして参加し、更にボランティアリーダーとしても会の運営に関わることが出来ました。ウクライナ支援募金コンサートでは座・高円寺で素敵なハーモニーを繰り広げました。4年ぶりとなった妙法寺パレードでは吹奏楽部の演奏が堀之内に響き渡り、街のみなさんの手拍子に心が弾みました。イノベーションコースは福島県との交流を開始することができ、今年度の「りんご甘酒プロジェクト」に進化しました。日本の未来を考える国家百年の計の会では政治家たちとの公開トークに挑戦し、「エネルギー問題」「少子化対策」「憲法9条」など堂々と自分の考えを政治家にぶつけるみなさんの姿に驚きと感動を覚えました。今年度からは北海道根室高校の北方領土研究会・沖縄県興南中学高等学校の興南アクト部との交流も開始し、日本のことを自分事と考えることができるようにする活動も始まりました。また、海外に出る機会も新設し、世界から日本を見ることができるようにもしました。これらが皆さんの学年であったことは偶然なのでしょうか。私はそうは思いません。あのコロナ禍を経験し、本校に入学してきたところから始まっていた必然だと感じています。
 
ところで、OECDによるPISAの学習到達度調査の結果を受け、日本の学びを変えなくてはならないとなりましたね。英語は4技能すべてを重視し、暗記学習ではなく課題発見解決力の育成及び読解力の強化です。ここでいうところの読解とは文章だけのことではなく、データ・画像などを含めた情報の読解を意味しています。探求という授業も始まり、学習指導要領も改訂され、大学入試に変革を起こしてそこから高校の学びを変えさせようとするものです。
 
と、これだけ教育界に大きな変化を求めているにしては、実社会はどうなっているでしょうか。コロナ対応はどうでしたか。復唱されることばかり、ものを考えないでいいようになっていました。政府やマスコミの発表を聞いていれば大丈夫といった空気です。ここに課題発見解決力はなくてよかったのでしょうか。だからこそ私たちは本校の教育理念「生命の尊重、慈悲・平和」に軸足を置きつつ、「なぜ」という問いを立て全校で課題を共有しました。コロナに関する用語の意味を知ろうとし、製薬会社の発表している文章を読み、厚生労働省の公表しているデータを紹介しました。そして、在宅にはさせずに学校に来させよう。何故ならば、睡眠時間や食事といった生活習慣を乱れさせてはいけない。家の外に出し日光に当たり学校に来て友達と会い、好きな部活動をする。予防もするけれど、自己免疫力を向上させることに努めることにしたのです。当時は生徒のみなさんや保護者の皆様からの心配の声も聞こえてきましたが、本校の方針をご理解いただきやりきることが出来ました。
 
コロナ禍が鎮まったとはいえ、世の中には関心を持って考えてほしいことが沢山あります。情報を受け取るだけになって「思考停止」してはいけません。ロシアとウクライナのこと、イスラエルとパレスチナのこと、能登半島地震とその後のこと、少子化のこと、エネルギーのこと、物価のこと、政治のこと、選挙権をもつということ。教科書や問題集の中だけではなく、私たちが活きているこの世界の中で、問いを立ててほしい。何も考えない人になってはいけません。
詩人の長田弘さんは自身の作品「あのときかもしれない」の中でこう言っています。
その時だったんだ。その時、君はもう一人の子どもじゃなくて、一人の大人になってたんだ。「なぜ」と元気に考えるかわりに、「そうなってるんだ」という退屈な答えで、どんな疑問もあっさり打ち消してしまうようになった時。と。
 
さて、校庭の桜の木が二本、雪の重みで倒れたのは知っていますね。教室からは、窓のキャンバスに描かれるソメイヨシノとして、まるで絵画のようだったのに大変残念です。植木屋さんに診てもらいましたが、元に戻すことはできないと言われました。ならばと、形を変えて生徒たちの学校生活に色を添える新しいものにできないかと考えました。そして白雪姫に出てくる七人の小人の椅子のような丸太にして切り残しました。この椅子の周りで生徒たちの笑顔の花が咲いている光景が今から目に浮かびます。
 
皆さんの長い人生もこれから色々なことが起こるでしょう。どんな転機が訪れたとしても、変化することを恐れず、誰かどこかを照らすことができる人であり続けてほしい。そして、もう一つ付け加えるならば。東京立正の一押しは何ですかと問われたときに「食堂のワッフルです!!」「唐揚げです!!」と堂々と言ってのけてしまうみなさんの素直さ・明るさ・まっすぐさをこれからも大切にしてほしい。
結びとなりますが、巣立っていくみなさんの未来に幸多かれと、私の好きな言葉を贈ります。
 
たとえ空に限りがあるとしても 
自己に限りを設けるな
かくなりたいと願え さらば成就せん。
 
 
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